「空気」と「世間」 (講談社現代新書)
電車に乗っていると、女子高生の集団が乗り込んできます。彼女たちは、楽しそうに会話します。やがで、駅で一人二人と居りてきます。〈中途略〉
二人になり、一人がホームに降り、電車が発車した瞬間、車内に残った女子高生の笑顔は、一瞬で真顔になります。それは、彼女が本当には笑っていなかったという証拠です。
嫌な接待の後、相手がタクシーに乗って走り去った瞬間、一瞬で笑顔が消えることと同じです。本当に楽しいデートの時は、笑顔はゆっくり消え、甘い切なさが残ります。
けれど、それでも、一人よりは安心するからこそ、女子高生は集うのです。ずっと一人よりは、無理して笑い、仮面の微笑みを身につけた方が、生きやすいと多くの日本人は思っているはずです。(p.209)
地域共同体という「世間」を代表するものが壊れ始めても、「世間」がとりあえず安泰だったのは、もうひとつの「世間」である会社が揺るぎなかったからです。会社と地域共同体は、日本の「世間」を代表する二大要素です。
日本人を支えてきたのは、地域共同体の安定と会社の安定だったということです。この二つのセイフティー・ネットの存在が、一神教に頼らなくても、安定的で混乱の少ない国と国民を作ったのです。
「終身雇用」と「年功序列」はとは、「世間」の特徴を会社用語で言い換えたものです。
正解のない問いの前で、たぶんどちらの答えを出しても後悔するであろう、人生の難問の前で震え、怯え、壊れそうになっている人間を支える──それが神と「世間」の役割です。(p90)
阿部さんの「世間」に関する仕事の中で、一番感動的なのは、「世間」のルールを明確にしたことよりも、じつは、「西洋にも『世間』があった」ということを教えてくれたことだと、僕は思っています。〈中略〉
阿部さんの中世ヨーロッパの研究によって、人間は、放っておけば、「世間」のような集団を作るものなんだ、それは日本もヨーロッパも同じなんだと例証したのです。
〈中略〉
つまりは、日本人の「世間」と欧米人の「社会」を分けるのは、一神教のキリスト教の存在なのだと、明確に描写したのです。(p80-p85)
「逮捕された」と聞くだけで、起訴もされず、判決も出ていない前に「ああ悪いことをしたんだ、悪い人なんだ」と思ってしまうのは、私たちが神秘的で呪術的な「世間」を生きている証拠です。
もし、「社会」に生きているのなら、西洋から輸入した裁判というシステムが染み込んでいるはずで、「逮捕されたからと言って、ただちに犯罪者とは限らない。まず起訴されるかどうかを見て、その後は裁判の結果を待とう」と思うはずなのです。(p75)
日本の社会の特徴である親子心中は、親が、子供も共通の時間を生きていると思うから起こるのです。〈中途略〉
親と子供は別々の時間を生きている、とは日本人は考えません。「世間」で一番の身近な単位である家族は、みんな、同じ時間を生きていると考えるのです。
結果として、子供はいくつになっても親と同居して、子供扱いされていても、別に疑問を持たないのです。
「私は『世間体が悪い』という言い方しないのになあ」と思っている若い読者がいると思います。「両親や祖父母は言うけど、今どき、『世間様に申し訳ない』とか『世間体が悪い』なんて言わないし、思っていないんだけどなあ」という人です。〈中途略〉
ある大学の講演会で、これから書く「世間」の特徴をいろいろあげました。大学生たちは、興味は示しても、どこか他人事のように聞いていました。
ところが、「この『世間』が流動化して、どこにでも現れるようになったのが、『空気』なんだよ」と言った途端、教室の空気が一変しました。それは劇的と言っていい変わり方でした。(p51)
「世間」と社会の違いは、「世間」が日本人にとっては変えられないものとされ、所与とされている点である。(p.47)
電車の中で、熱心にお化粧をする女性は、そこが「社会」で、自分には関係がないと思っているからできるのだと思います。もし、一人でも、会社の同僚が乗り合わせて来たら、彼女は今まで通りには化粧は続けられないはずです。「社会」しかなかった空間に、「世間」が現れたからです。(p39)
「空気」とは「世間」が流動化したもの(p6)
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