教育と格差社会

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出版者
青土社
価格
¥1,680
マルクスは価値を使用価値と交換価値に分けた。教育世界の使用価値は「市民の育成」や「知的であること」や「教養」や「研究」であるが、交換価値は「単位」や「学位」や「学歴」や「地位」であり、市場原理に従えば、後者が前者を駆逐する。
〈中略〉
生徒は顧客である。生徒は「役立つ」・「売れる」・「有能」という基準で計られる。すると生徒は「単位が取れるか」「卒業できるか」「スキルは」と考えるようになり、受け身になる。思考や真理の探究や理想や創造という価値は軽視される。(p128)
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フィンランドは(PISAランク)読解力一位、数学二位、科学一位だが、教科書を今日の自由裁量にし、統一カリキュラムはあるが全国一斉テストはなく、習熟度別クラス編成や補修はせずに、授業時間数は英米より少ない。
北欧の教育政策は他の社会政策と呼応している。完全雇用を目指し、労働者の権利を認め、福祉を目指す行政だ。たとえ不十分でも、福祉社会に欠点があるにせよ、国民の生活を平準化する努力をしてきた。だから教育行政で、成績別クラスより総合性を、競争や学校選抜より連帯や共同性を、国民や民族意識より地域文化を、テストや成績より学習意欲を、知識の注入より問題解決学習を重視してきた。白教育の重視である。
白教育は社会政策と連動している。競争社会で白教育は極めてしにくい。平準化社会でこそ白教育が有効だ。この点を多くの人が錯覚している。
PISAもテストであり、これが全てではないが、教育再生会議が成績上位のフィンランドに比べ、全て逆の政策をとり、日本より下位にある英米の教育を手本にした理由がわかる。社会政策上、英米はフィンランドとは異質なのだ。
〈中略〉
子どもの学力は国民の貧富の格差と希望の格差をよく表す。日本は英米と同じく競争原理に基づく社会であり、フィンランドのように生活水準の平等化や福祉社会を目指してはいない。再生会議案は成績上位者をあげることに専念し、全体の底上げは狙っていない。
A層に入る「エリート」を選別しようとしているだけだ。イギリスでもアメリカでももともとの成績上位者はテスト成績をさらに上げている。この「実績」を「高く評価」したのが再生会議の提言だ。(p218-219)
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日本でも海外でも若年の非正規労働が常態化し、世界中で若年失業があり、テロや暴動や反格差・反貧困のデモが起きている。IT技術による新産業革命がじわじわと進行しつつある。雇用の絶対数不足の時代に突入したことを前提にして、日頃から「本人の責任ではない」ということを伝えておかねばならない。周囲の大人がこの認識に欠けていたり、高をくくっている場合、就活自殺や就活他殺においやる。(p83)
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教員の商品化は、テストとカリキュラムと学校と教師と事務の面で進められる。
多くの都道府県の高校入試は学校選択の自由のために一区になり、どの高校も受験できる。どの程度の成績でどの高校に入れるかを知るには、業者テストに頼らざるをえない。教育庁も学校もそのデータがないからだ。神奈川県の場合、中三生徒が九万人、一回の業者テストは四〇〇〇円、年五回あるから二万円、それを掛け合わせると一八億円が業者に入る。
〇七年からの全国学力テストは、ベネッセとNTTが請け負った、費用についての報道はない。一人当たり四〇〇〇円かかるとして、全国の小六と中三の三〇〇万人をかけると、一二〇億円となる。この金を誰が出し、誰が受け取るのか。(p20)
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超富裕層をA層、中間層をB層、貧困層をC層とし、さらにその下にほぼ無収入のD層や外国人労働者が加わる。
一人勝ちしているのはA層だが、その姿が見えない。
〈中途略〉
B層はC層を「能力が低い」と蔑んでいる。C層はD層や移民に対して「社会保障費をムダ食いしている」と避難する。C層はB層に「自分と同じ程度しか働かないのに高給を得ている」と妬む。D層はどうしても這い上がれないのを感じとり、世の中に深い怨みをもっている。
B・C・Dの各層が身近な階層を互いに非難している限り、A層は安泰である。これは為政者の心性操作にもよるが、消費社会状況でのセグメント化(個人化)にもよる。社会問題を個人問題にすり替える思考回路が作られている。
この状況で、教育改革と称して「民営化」進められる。先に述べたとおり、教育は庶民に今の生活から脱け出す「希望」や幻想をばらまく。だから「民営化」もしやすい。数十校の校区の全予算を使い、たった一校の中高一貫校を作っても庶民は怒らない。自分の子が入れるかもしれないという幻想を抱くからだ。(p19)
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