YOSHIDA Youichi
ライブラリ 9 册 | 詳細レビュー 9 件 | 引用 0
一行紹介

出版業界でひっそりと生きる編集者。興味のある分野は戦史、宇宙、地球科学、未来学、SFなど雑食系。


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大和ミュージアム常設展示図録
評価 : (5.0点)

呉の「大和ミュージアム」の公式ガイドブック。大和だけでなく日本海軍の歴史、そして呉軍港の歴史を記録され、元兵士の証言も掲載された貴重な一冊。


〈映画の見方〉がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀 (映画秘宝コレクション)
評価 : (4.0点)

本書は、1980年代アメリカで誕生したブレードランナーやターミネーターなど怪作や問題作を取り上げ、筆者が詳細に分析したものだ。
筆者が取り上げている映画は、いわゆる「全米が泣いた!」みたいなタイトルは一本も無いが、現代に至るまで我々が目にする作品の元パターンを生み出した作品群でもあり、ぜひ一度は観ておきたい作品でもある。
そして筆者は、それら映画の背景から監督の人間性までえぐり出し、我々の前にさらけ出している。例えば製作に至るまでの監督の生い立ち、動機、彼が影響を受けた作品などに始まり、実際の映像作品中における伏線、最終的な映像作品ではカットされたために意味不明になった部分の謎解きまで幅広い。ちなみにブレードランナーで有名な「二つで十分ですよ」の謎解きも…
とまれ、本書はそれぞれの映画のファンからカルトムービーファンまで、幅広い層にオススメです。
なお、筆者にはぜひ現代日本の宮崎、押井、大友各氏などの映画をテーマに、本書の続編的な書籍を出して欲しいと思う。

なお本書を読んでから映画を観るか、観てから読むか、というところが問題だが、本書はネタバレも満載なので観てから読む方がいいと思う。


日本沈没 第二部
評価 : (4.0点)

小松左京氏の「日本沈没」が実は「第一部」という扱いであり、続編となる幻の「第二部」が執筆中らしいという話を各所で聞いてから十数年、2006年にやっと第二部が刊行された。

「第二部」は、日本沈没から四半世紀後の世界を舞台に、国土を喪失した日本という前提の中で登場人物の苦闘と心情を描き出している。そう、そして「第一部」で離別したあのカップルも登場する。
国土を喪失し、様々な国際的な信用度も失い、国家間の利害の中で翻弄される日本人たち…。本書のテーマは、まさに「苦闘する日本人」と言って良いだろう。
そういう意味でも「第一部」が災害シミュレーション小説だとすれば、「第二部」は仮想世界における政治シミュレーション小説の色が濃いように思える。
とまれ、世界観の理解、登場人物の連続性などもあることから、ぜひ「第一部」を読んだ上で本書を読んで欲しいと思う。

なお、私として不満が残った箇所が若干ある。
まず日本政府やその組織(自衛隊他)、そして日系企業がどうやって維持されているのか、もう少し詳しい状況説明を読みたかった。日本沈没後の護衛艦のメンテとか組織の維持方法、また政府の正当性を裏付ける意味で議員の選挙制度など知りたかった。
また、最終章があっさり終わってしまいどうも不満が残る。要は薄すぎる、ということなのだが、いつも谷氏であれば、この段階からの登場人物や日本政府の行動が緻密に描かれていくだろうという期待があったからだ。帯には「…ついに完結」とあるが、ぜひ最終章前段と後段の間を繋ぐ「歴史」を「第三部」として読みたかった。先頃小松左京氏が逝去され、知の巨人の新著がもはや読めないことがつくづくも残念でならない。


もしも月がなかったら―ありえたかもしれない地球への10の旅
評価 : (5.0点)

私の尊敬する故・タケキンこと竹内均先生監修の科学初心者向け書籍。タケキンの監修のおかげで翻訳書にありがちな堅さや誤訳も無く、非常に読みやすい書籍だ。
内容は、表題の「地球に月の無い世界」の他に、「地球の自転軸が天王星のように横倒しになっている世界」「もしも月が地球近傍を公転していたら」などなど10通りのシチュエーションを、きちんとした科学知識の裏付けを元にシミュレートしているものだ。
中高生レベルの科学思考の入門書としても非常に良いと思う。また、SFファンだったら、ある種のハードSFとして読むのも面白いと思う。難点としては図版が少ないことか。


図説・幕末戊辰西南戦争―決定版 (歴史群像シリーズ)
評価 : (4.0点)

本ムックだが歴史群像シリーズでこの手のムックを作り慣れている学研らしく、大変わかりやすい構成だ。トピックと編年形式の構成で、再現イラストと復元写真などが多用され、実際の事件や戦闘がどのような状況で起きたのかが理解しやすい。
当時の幕府軍の歩兵隊の軍装や、幕府海軍の軍艦の復元図など、幕府軍マニアの私には大変有り難いイラストが多数掲載されている。また戦場の俯瞰図、さらに当時の江戸の京の町並みの鳥瞰図などは、ぼーっと眺めているだけでも面白い。

ただ、逆に当時の主要人物の動きなどはあまり取り上げられていない。あくまでもイベント主体の構成だ。そういう作りのため、幕末に活躍した志士などの人間ドラマを読みたい人には、多少物足りないかもしれない。そういうものが好きな人は、本ムックを当時の社会背景や武器、兵器を理解するためのビジュアル資料として活用すると良いだろう。

値段も1,900円と決して高くは無いので、時に歴史の彼方を思うための資料として、機会があればぜひ一読をお勧めしたい。


図説・幕末志士199―決定版 (歴史群像シリーズ)
評価 : (4.0点)

本ムックは、文字通り幕末の志士を紹介したデータベースだ。坂本龍馬や勝海舟などの著名人から、伊豆韮山の代官江川太郎左右衛門など知る人ぞ知る、という地方の逸材まで幅広く紹介している。また、面白いのが維新前夜の先覚者である高野長英や渡辺崋山なども紹介していることだ。どうしても維新モノと言うと、鳥羽伏見の戦いのあたりから函館戦争までが対象、という構成のものが多いが、それ以前に維新の胎動を作り出した人間の業績にも注目しているところが歴史モノの学研ならではでないだろうか。

ちなみに高野長英は筆者と同郷で、田舎の小学校では郷土の大偉人として色々と教わった口だ。本書では奥羽諸藩の志士の掲載が少なく寂しい限りだが、それを埋める意味でも高野長英の掲載は地元出身者としてはちょっと嬉しい。

また、今回感じたのは、伸張著しいWikipediaとの使い分けだ。例えば高野長英の業績はそれこそ本書を読まずともWikipediaでも読むことが出来る。だが、肖像や著作の写真などは現在のところ(2007/6/23現在)Wikipediaでは掲載されていない。図像情報を見ることができるのが書籍・ムックの良さだろう。更新が早く、ネット利用者なら誰でも利用出来るWikipediaだが、まだまだ情報の多様性では書籍・ムックが優位に立っている場合も多い。両者を適宜使い分けるのがベストと言うことなのだろう。

幕末歴史マニアは、ぜひ『図説・幕末戊辰西南戦争―決定版』と併せて手にとって欲しい。


誰にも書けなかった戦争の現実
評価 : (4.0点)

本書が取り上げている内容は、連合国の兵士と国民の生活を通して描き出した第二次世界大戦のある「現実」である。戦場で暇を持て余した兵士向けに刊行されたペーパーバック、総力戦によって戦場が後方の市民生活と重なった結果、残酷な現実と向かい合うことになる普通の市民達、配給所を「ブリティッシュ・レストラン」と呼ぶ欺瞞など、米英両国の事例を中心に18章構成で書かれている。著者は実際に第二次世界大戦を体験した人間で、米国出身で欧州戦線で負傷して勲章を貰っているようだ。

ちなみに第17章「キルロイ参上」は、私のかつての愛読書、佐藤大輔氏の短編「キルロイここにあり」にも使われたフレーズで、戦争中に兵士達に人気のあった、連合国側各国各地域に遍在する謎のキャラクターのことだ。様々な地域の色々な場所や物に「Kilroy was here.」と書くのが流行したらしい。個人名でも無く、有名キャラでもなく、キルロイという無名の人名を書く、という行為は、平時を生きる私には分かるようで分からない。キルロイという共通のキーワードを使うことで、互いに会うこともない兵士達が、戦時という極度の緊張を強いられる時代の中で、何か連帯感を感じていたのかも知れない。

本書は戦争中の連合国の風俗、兵士の心境、銃後の国民の生活とそれを統治する政府の政策などを多面的に知りたい人向けの書籍かと思う。


冷戦―その歴史と問題点
評価 : (4.0点)

本書は、第二次世界大戦終了間際から1991年のソ連解体までのいわゆる「冷戦」を、歴史家の客観的な立場から俯瞰しつつ、その中でのキーマンにフォーカスを当てて解説した歴史書だ。
対立当初の東西両陣営の指導者、そして前世紀末の冷戦を解消する上で重要だった人々の働き、そしてその限界点や問題点なども簡潔にまとめられている。
ちなみに私は冷戦時代後期を知っている人間だが、あの当時の時代の雰囲気というものを思い起こしながら本書を最後まで一気呵成に読むことができた。20世紀の歴史を理解するための好著と言える。

なお、後書きに訳者も書いているが、本書を読むと日本の存在感の無さが、本当に浮き彫りにされる。ゲームに参加するのではなく、ゲームの駒として扱われていた、ということが感じられる。現在においても、その状況は果たして改善されているのか、というのも読後気に掛かった点である。


バランス・オブ・パワー デザイナーズ・ノート
評価 : (5.0点)

1980年代、米ソ冷戦をテーマに作られた戦略シミュレーションゲームの解説書。ゲームの攻略本の体裁を取りつつも国際政治の駆け引き、大国による政治介入の現状(当時の、ですが)などが学べる地政学・国際関係学のテキストになっている。


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