この1冊ですべてわかる コーチングの基本

P.141

◎ 聞くためのポイント ◎

(1)「聞く」ことに集中する
自分が話すことよりも、相手に話をさせる環境をつくることに集中します。コーチが会話を独占することはありません。

(2) 相手の話の先読みや、結論の先取りをせず、最後まで聞く
途中で口を挟まない。また、自分の先入観で話を聞かないことが大切です。

(3) 相手のノンバーバル(非言語)な情報を受け取る
コミュニケーションは言葉だけで成り立っているわけではありません。相手の表情やしぐさ、声のトーンなどが言葉以上のものを語ることがあります。

(4)「聞いている」というサインを送る
タイミングのよい相づちやうなずき、また、表情や目線で相手を安心させることで、より多くの情報を共有することができます。

(5) 沈黙を共有する
会話は、言葉と沈黙によって構成されます。相手が沈黙している時間は、新しいアイデアや正直な気持ちに向き合うために必要な「間」として捉える視点が必要です。
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P.136

 自責と他責についてコーチが扱うとき、間違えてはいけないポイントは「クライアントの抱えている課題の責任の所在が、実際には誰にあるのかは取り立てて重要ではない」という点です。たとえ実際のところは 99% 相手の責任であったとしても、その課題に自分自身が働きかけると決めたなら「100% 自分の責任だとしたら何が原因だろうか?」とあえて自責の状態になることを選び取ることが重要なのです。
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P.129

 自己を客観視させる方法として最も直接的で効果が高いのは、自分自身を撮影・録音した情報をそのまま見聞きしてもらうことです。
 コーチング・セッション中の会話、会議の様子、オフィスの自席での自分と部下の会話、面談の様子等々、了解が得られればコーチが録音や撮影に行くこともありますし、クライアント自身に定点カメラ等で撮影してもらうこともあります。
 そして記録した映像や音声を、コーチング・セッション中にコーチとクライアントで一緒に視聴します。百聞は一見にしかずとはよくいったもので、この手法は非常にインパクトが強く、たいていのクライアントは大いにショックを受けます。過去には「こいつが上司だったら俺、モチベーション上がんないわ」「何だか終始上から目線で聞いていて苛立ちを覚える」と自分自身を評した方もいました。
 このように、課題や汚点、不都合なことなど思いどおりに行かない現実に真正面から向き合うことを「コンフロント(直面)する」と表現します。コンフロントした状態は、無意識にもっていた自分のセルフイメージ(こうありたいという理想の自分自身)とリアルセルフ(実際の自分自身)の間にギャップを強く認識している状態のため、非常に居心地の悪い嫌な気分にさいなまれます。人が周囲からのフィードバックを恐れたり、そう簡単には聞き入れようとしなかったりするのは、コンフロントを起こして嫌な気分になるのを避けたいからでしょう。
 コンフロントを起こしている瞬間は、無意識のうちに抱いていたセルフイメージを言語化する大きなチャンスです。
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P.97

 コーチとして経験を積むと、当然ながらテクニックとしてのコーチングスキルが身についてきます。さらに、そのテクニックを使った成功体験が多ければ多いほど、次のクライアントにも適用させようとしてしまうことがあります。ところが、テクニックを駆使するだけでは、さまざまな個性をもつクライアントに対してのコーチングは成立しません。
 私自身も、コーチとして駆け出しのころ、複数のクライアントに対して、トレーニングで学んだばかりの質問をどんどん投げかけ、クライアントから「不自然だった」といわれた苦い経験があります。このような状況では、クライアントから気づきを引き出すことは到底難しく、不信感や不安を抱かれかねません。やはり、テクニックを使う前に、目の前のクライアントの特徴、状況をよく理解し、それに対応できていることが必要です。
 また、コーチの価値観や考え方をクライアントに押し付けてしまうコーチも考えものです。自分自身の価値観や考え方をいったん脇に置いて、いつも新鮮な気持ちでセッションに臨む姿勢こそ、個別対応するために重要なものです。
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P.89

 みなさんは、誰かをほめるときにどんな言葉を使うことが多いでしょうか。「素晴らしい!」「えらいなあ」「助かったよ」など、ほめ言葉が次々に浮かんだ方もいれば、いつも誰にでも同じほめ言葉を使っている人もいるでしょう。
 私たちコーチは、クライアントが目標を達成したときはもちろん、セッションで宣言したことを実行したときや目標までのマイルストーンを達成したときに、クライアントに言葉を使えますが、その伝え方として次の 3 つのスタンスを持っています。

 (1) YOU メッセージ
 (2) I メッセージ
 (3) WE メッセージ

 YOU メッセージとは、YOU のスタンス、つまり、「あなた(あなたの仕事)は◯◯だ」と相手に伝えることです。「仕事が速いですね」「完璧な資料ですね」「賢いですね」などがこの例です。
 I メッセージというのは、私のスタンスで、相手の行動や存在が自分へどんな影響を及ぼしたのかを伝えるメッセージです。「参考になりました」「もっと詳しく話を聞いてみたいです」など、自分が思っていること、感じていることを伝えます。
 そして、WE メッセージというのは、私たちというスタンスで、自分たちにどんな影響が及んだのかについて言及するメッセージです。「あなたのひと言でこの会議が和やかになりました」「あなたがいるだけで、会社全体のエネルギーが高まるようです」など、より大きな影響力を相手に伝えるメッセージです。
 この 3 つのメッセージは、どれがよい悪いはありませんが、前述の所属の要求を満たすという意味でも、より他社への影響を確認できる I メッセージや WE メッセージのほうが相手の心に残るようです。もちろん、実際は、ストレートな YOU メッセージを好む方もいますので、コーチは、クライアントをほめる際、どのスタンスをとれば、より伝わりやすく、次なる行動を生み出しやすいのかを見極めるように意識をしています。
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P.83

 「成功するには、成功するまで決して諦めないこと」───これは、アメリカで鉄鋼会社を創業し、成功を収めたアンドリュー・カーネギー氏の残した言葉です。本田宗一郎も「最後まで諦めなかった人間が成功しているのである」と社員によく語っていたといいます。どちらも、諦めずに継続して行動し続けることは、成功のための重要な要素であることを示唆していますが、彼らのように大きな成功を手にした著名人でなくても、みなさんの周囲の成果を上げている人には、この「成功するまでやり続ける」という行動特性があるのではないでしょうか?
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P.75

 対話の質を高めるための有効な手段として、重要な技術が「質問」です。コーチは「質問のプロフェッショナル」ともいわれますが、クライアントの潜在意識に質問という方法で働きかけて、無意識を顕在化させるのです。
 また、対話の量を増やすためには、コーチとクライアントの間の信頼関係が重要です。「コーチに話を聞いてほしい」「コーチと一緒に取り組みたい」という気持ちがクライアントにない限り、コーチがいくら効果的な質問を投げかけても、クライアントは多くを話さないでしょうし、表面上の会話になってしまう可能性が高くなります。
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P.70

 1 つめの原則は「双方向」です。双方向の対話とは、ただ単純に言葉が行ったりきたりしていることではありません。たとえば次の会話を見てみましょう。

クライアント「すいません。先週やると決めたことができませんでした」
コーチ   「あなたが目標を達成するためには、必要だったことですよね?」
クライアント「はい。そう思います」
コーチ   「わかっているのに、なぜできないんですか? なぜやらないのですか?」
クライアント「そうですよね。すみません」

 このような、コーチ側に強い先入観や、正解ありきで誘導的な質問をしているコミュニケーションは、言葉のやりとりをしているだけで、双方向とはいえません。コーチがクライアントにいいたいことを一方的に伝えているコミュニケーションです。
 上の会話の例では、「目標達成のためには、やると決めたことはやるべきだ」というコーチ側の強価値観・信念のもと、「とにかく、もう一度やると約束させよう」という着地点が決まった誘導的な質問となっています。コーチとクライアントが対等な立場ではありません。
 では、双方向が成立していると、先ほどの会話はどうなるでしょうか。

クライアント「すみません。先週やると決めたことができませんでした」
コーチ   「何か理由があったんですか?」
クライアント「頭の片隅には常にあったのですが、緊急トラブルでその対応に追われてしまって……」
コーチ   「それは大変でしたね。忙しい中でも、目標に向けて前進するにはどんな工夫ができるでしょうか?」
クライアント「優先順位を明確にして、取り組んでみようと思います」

 この会話は、先ほどの会話とは違って、同じ目線で言葉のキャッチボールをしている状態です。相手の発言を受けて、自分の言葉を投げかけ、またそれに返して……という、やりとりの繰り返し、それが双方向の会話が成立している状態です。
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P.38

 優れたコーチというのは、人の繊細な変化を決して見逃しません。目的や目標に向けて成長しているクライアントに対して、何ができるようになったのか、何がいまだ未開発なのかを、はっきりと認識し、伝えることができるのです。時には、クライアント自身も気づいていない変化を発見することもできます。
 ある IT 企業でお世話になっている担当の女性は、その会社で有能なマネージャとして評判の人物です。あるとき、その会社で研修を担当した際、「キーメッセージを短くいい切る」という課題を独自に設定して臨んだことがありました。
 すると最初のセッション終了後の休み時間に、彼女はにっこりと微笑みながら声をかけに来ました。「前回よりもメッセージが短くなっていますね。前回よりもポイントが明確に伝わってきます」
 彼女は、いつも決まって「変化成長」を発見しようとしているのです。きっと彼女には「昨日の彼・彼女と今日の彼・彼女は、何か違っているはずだ」という、人を観る際の前提があるのでしょう。
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P.36

 私自身がコーチングを学ぶうえで影響を受けた、ある有名なトレーナーがいます。彼は、多くの受講生から慕われ、尊敬される、経験豊富な人物です。あるとき、数日間のトレーニングの最後に受講者の一人が彼に質問を投げかけました。「結局、あなたが最も大切だと思うコーチの資質は何ですか?」と。一瞬の沈黙のあと、彼は深く呼吸し、そして堂々といい切りました。「とにかく、諦めないことだ」
 コーチングでは、クライアントが何度も困難な成長課題に直面します。途中で前進することを諦めかけるケース、自信を失い前進の意欲を低下させたりするケースは、決して少なくありません。
 そうしたときに、クライアントに伴走しているコーチに求められることは、クライアントが常に「目的」や「目標」から目をそらさないようにすること、そして前進できる「可能性」に着目し続けることなのです。
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P.15

(1) コーチングは、「知識」と「行動」の間の溝を埋める

 「後進が育たない」「ビジョンが浸透しない」「職場に一体感が感じられない」ーーーこれらはリーダーやマネージャーの悩みとしてよく話題になるテーマです。リーダーやマネージャーは、こうしたテーマについて、決して解決を放置していることはなく、むしろ日々考え続け、そして必要な情報を集めている場合が多いのです。そして、およその解決策を頭で理解していることも珍しくありません。
 私たちは多かれ少なかれ、このような「わかっているけど、行動できない」経験をしているのではないでしょうか。コーチングは、こうした「知識と行動の間に横たわる溝」に橋をかける試みともいえるでしょう。
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